麦屋踊

 三連休の1日目。南砺市旧城端地域で「むぎや祭り」が開催されました。

 城端といえば、城端別院善徳寺の門前町として栄え、古くからの伝統を感じさせる情緒ある街並みで知られています。昨年には「曳山」がユネスコ無形文化遺産に登録され、県内外からの観光客でにぎわっています。この曳山と並ぶ伝統行事として「むぎや祭り」が行われています。「春の曳山、秋のむぎや。」城端の季節を彩るお祭りの一つが、今回のむぎや踊りなのです。伝統的な衣装に身を包んだ男女が舞を披露します。

 踊りといえば、富山県は「おわら風の盆」が有名です。

 おわらは、県東部の旧八尾町で開催されるお祭りです。年間来場者数は約10万人。県内外からの観光客で有名なお祭りです。一方むぎやは県西部のおまつりです。

 むぎやとおわらの違い。最も大きな違いは、踊り手の姿ではないでしょうか。おわらでは、庶民といいますか、百姓の男女が帽子で顔を隠して、農作業を表した踊りを踊っています。たいして、麦屋の場合には男女ともに顔を隠さず、男性は帯刀した袴姿で踊り、女性は色鮮やかな着物でたおやかに踊っています。

 実は麦屋節は、戦乱を逃れ山奥に移り住んだ落人たちの音色といわれています。南砺市利賀地区には世界遺産五箇山集落があります。かの地には「平家の落人」の伝説があり、源氏に敗れた平家の侍が、人里離れた山奥に築いたのが現在の合掌集落だったのです。慣れない農作業と養蚕に勤しむ暮らしの中で、都を偲んで踊ったのが「むぎや踊り」とされ、今に伝わっています。すなわち、落ち延びれども武家の踊りなのです。

 そういわれてみると、どこか気品のある踊りであるとも感じられます。数百年前に都を追われた人々が、遠くの山の先にあるであろう都を偲んだむぎや踊り。たいして越中の百姓が、日々の暮らしを踊りに現し洗練させたおわら踊り。

 それぞれの地域に残る舞踊や民謡は、まさに遠き先祖たちの記憶を引きつぐ伝統行事なのですね。

 なお、おわら節は近代、おおむね大正時代ごろに新進気鋭の民謡作家らの協力で今に伝わる音色に生まれ変わったといわれています。大正期の銀座の百貨店などでも、おわらは披露され、一躍全国区の舞踊として知られるようになりました。(『歴史と観光』)

 むぎや踊りも有名ではありますが、おわらの後塵を拝する面は否めません…。

どちらもよいお祭り。むしろ、混雑の面では麦屋のほうが落ち着いて見られる点で軍配が上がっていると思います。近年では、伝統的な町内踊りに加え、県内外の団体の参加を募った「よさこい」も併催されており、盛り上がりを見せています。ミュージカル調の団体もあって、結構楽しんでみることができました。若者参加で楽しめる祭りが「むぎや祭り」ではないでしょうか。

 2012年には、PAworksが制作したアニメ「True tears」の舞台にもなり、「むぎは踊り」としても登場しています。インドアのアニメ好きの方々も、足を運んでいます。

 9月、おわらの後はむぎや。ぜひとも城端線を活用し、秋の涼しい城端で独特の情緒を感じてみてください。