隠れた名湯・湯谷温泉(ゆだにおんせん)富山県砺波市
「ノスタルジックな旧温泉旅館」
「砲身から噴き出る源泉、水没する湯殿」
「惚れ惚れする立派な砲身(湯口)」
「衝撃的な温泉施設」
「湯谷温泉(ゆだにおんせん)」は庄川の上流、小牧ダムの足下に位置する温泉です。古くは温泉旅館だったよううですが、旅館は廃業し、現在は日帰りの温泉施設として稼働しています。
ダムから見える謎の家屋として注目していたところ、どうやら温泉施設であると知ったのは大学時代のこと。
旧利賀大橋への好奇心から、ドライブがてら周辺に足を運ぶことは多かったが、なかなか勇気が出ませんでした。
意を決して、足を踏み入れた際のレポートをお届けします。おそらく温泉好きや昭和の時代的雰囲気が好みの方にはたまらないスポットであることは間違いないと思います。
□目印はバス停!
「湯谷温泉」と書かれたバス停があります。ここに書かれている案内を頼りに、向かって左手の脇道を下っていきます。結構傾斜もあって、旅館としての現役時代には大変だったんじゃないかなと感じます。
道すがら「湯谷亭」と書かれた看板がありました。電気がついていて、覗いてみると、内装から何まで昭和年間の香り。今日はトリップしてきた時間旅行者の気分で下り坂を降りた。
□寂れた古き良き日本旅館の趣
玄関で500円硬貨を置いて、入館。
私の前に先客が2名。3枚の硬貨が無造作に並べられています。
手描きの案内文を頼りに湯殿を目指す。
長い廊下は薄暗く、独特の雰囲気が漂う。廃墟のようではあるが、しかし、掃除は行き届いていて、床面には外光の緑の明かりが映り込んでいました。
廊下の執着駅からは巨大なコンクリートの壁「小牧ダム」を望むことができる。不思議な景観ですよね
簡易な脱衣所はしかし、1920年代の趣が漂う。男女を分け隔てる案内表示から年代を感じますね。
□トーチカのような湯殿!砲身から噴出する源泉!
湯殿に降りると思わず息を呑んだ。
砲身状の噴出口から蕩々と湧き出る源泉の音。
ほのかに香る心地よい硫黄臭が正真正銘の温泉であることを訪問者に知らせている。
そして、緑色に苔むしたコンクリートの壁と青い水面を讃える湯船。いや、よくみると湯船しかない。湯殿全体が温泉に沈んでいる不思議な光景が目の前に繰り広げられていました。
かつて、古書店で拾った芸術新潮のバックナンバーにこんな温泉の美学が語られていた。まさにその時見た温泉のような感じである。
しかし、これはそれどころではないぞ...!?
なんだこれは!?
大砲のような湯口から蕩々と噴き出るお湯に度肝を抜かれちまった。しかもこれは可動式と来たからまいった!
いきりたった砲身は男性側、女性側どちらにも湯の噴出口を向けることができる。水面から顔を覗かせる噴出口と噴出する源泉をみると、景気がいい
男性は思わず羨ましく思えてしまう
こういう遊び心いいですよね。
砲身を水面下に沈めてみた。湯殿全体が静けさに包まれる。湯温はそれほど高くないので、身体はじっくりと温もりに包まれるのだ。足を伸ばして天井を眺めた。
大正13年から数えること90年近く、このコンクリートの湯殿は存在し続けていることになるのだろうか。緑色の屋根が年期を感じさせます。差し込む光の当たり具合もまたなんとも神妙な心地にさせてくれます。
40分ほど、湯殿にいたろうか。
湯温が高くないからか、あまりあったまった気がしないなあと脱衣所に登った時、汗が吹き出してきました。そして、少しくらりと。湯温が低くて油断しがちですが、湯当たり注意ですね。茹でガエルの法則みたいな。
身体の芯からあったまれるよい温泉でした。
湯上りに廊下で幼い子どもを連れた常連と思しき老婆とすれ違いました。軽く挨拶すると、良い湯だったでしょう!と言われ、ええいい湯でしたよ。とっさに口から出た言葉ですが、全くその通りでした。おばあちゃんに連れられた幼い子どもにとっては幼心に強烈な印象に残りそうですね。なんとか続いて欲しいもんですね。
しばらく休憩。
廊下には何故か麦酒しかない自販機と壊れたマッサージチェア。持参した水を飲みながら、暫し休憩。廊下のひんやりとした空気感が心地よい。
猫。この子は入るときに出迎えてくれました。
かわいい
建物を後にすると、道でエプロンの女性と遭遇。
「お湯をくんでかれましたか?」
聞けば、温泉の関係者らしい。どうやらあの温泉、飲用に適した湯らしい。ペットボトルに入れて持ち帰ると、美味しく飲めるらしい。
「また機会がありましたら、入られたときにでも」
楽しみである。ところで、周辺には湯谷亭や大松など、仕出し料理の店がありました。湯谷亭などは、電気も付いて営業している様子です。
「旅館はすでにやってないけど、食べるところはなんとか続いています、まあ続くかはわからんけど」
湯谷亭。今度ぜひ行ってみたいと思います。
旅館は寂れて久しいけれど、お湯は蕩々と沸き続けています。いつまでも。この場所で。
無くなって欲しくない場所がまた一つ増えました。
ぜひまた訪れようと思います。